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「明治神宮外苑再開発」による神宮球場の大幅リニューアルが困難な2つの理由

 

建物の構造上の問題やスペース不足


明治神宮野球場は1926年に完成した伝統と歴史のあるスタジアムである


 1926年に竣工した明治神宮野球場を運営する永渕義規球場長は2012年から現職で「これからの100年」について、こう考えている。

「球場勤務は今年で29年目。神宮球場には相当な愛着を持っているつもりです。歴史ある神宮球場を、後世に継承していかないといけない。これからの100年につなげることが使命だと思っています。未来の野球ファンにつなぐには、この方法しかありませんでした」

 明治神宮外苑再開発により、明治神宮野球場を取り壊し、2032年に新球場が完成する予定となっている。現在の秩父宮ラグビー場の付近に、新たに建設される計画。なぜ、現存の球場をリニューアルすることができないのか。

 その大前提として、建物の構造上の問題やスペース不足がある。永渕球場長は事情を説明する。

「13年から3年間のオフシーズン期間を利用し、来場者の安全性を向上すべく、耐震補強工事を実施しました。構造耐震性能を有する建物ではあるものの、これからの100年を見据えるとご来場者、選手にとって、大きな課題を残しています。近い将来、限界がくる可能性は否定できないのです」

 現存の球場と同じ場所に、新たに建て替えるのと、現在の場所での大規模リニューアル、2つの選択肢があるが、双方とも難しいという。永渕球場長は説明する。

「解体と建設で5年以上の時間を要します。学生野球、プロ野球等で年間約450試合以上(一般貸出を含む)を開催し、球場を取り壊して、同じ場所に建て替えるのは現実的ではありません」

 また、大幅リニューアルが困難な理由は、2つある。永渕球場長は続ける。

「まず、工期を確保できないんです。11月の明治神宮野球大会、ヤクルトスワローズのファン感謝イベントを終えるとオフシーズンに入るんですが、次年度のシーズン開幕(3月中旬)まで3カ月半で、難しいです。外周スペースの用地不足という根本的な問題もあります。現状のさまざまな課題の多くが場内外のスペース不足に起因しており、特に、新たな機能の増設によって外周スペースがこれ以上狭くなると、雑踏事故の危険性があり、現球場の問題点を解決できません。これからの100年にふさわしい球場にリニューアルすることは、この場所ではできない事情があります」

隣地での建て替えが唯一の選択肢


 ファン、選手に対して「安全」と「快適性」を提供する。神宮球場としては、建て替えでないと解決できない主な問題点を4つ抱えている。

【1】内野バリアフリー問題
球場の構造上や、場内外スペースの狭小によりエレベーターを設置できない

【2】歩車分離問題
歩行者と車両の動線が同一であるため、現在地での解決は不可能

【3】コンコースの狭さ
現球場では売店、トイレなどあらゆる動線が混在しているのが問題点だが、場内外スペース不足により、動線分離を実施するのは不可能

【4】バックヤード不足
プロ野球を開催する球場として通常、備わっている多くの施設が、現球場には存在していない。また、駐車場、会議室などの諸室、ゴミ処理スペースなど、他球場と比べて不足、または不十分な施設環境下での運営を余儀なくされている
 
 国内外にはリニューアル(リノベーション)により維持している球場もあるが、神宮球場の場合は、隣地での建て替えが、唯一の選択肢なのだ。永渕球場長は率直な思いを語る。

「人生の半分以上、神宮球場に携わっており、取り壊すことについては、私自身も非常に寂しい限りです。ただ、球場を建て替えれば、すべてが解決できる。安全と快適が提供できる。ご理解をいただけると、ありがたいです」

 アマチュア野球、プロ野球ファンに愛されている神宮球場。2026年には節目の100年を迎える伝統のスタジアムは、新たな一歩を踏み出そうとしている。32年に完成予定の新球場は、緑あふれる広場と一体となった開放感あるスタジアムとなる予定だという。

文=岡本朋祐 写真=BBM
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